●6.詐欺まがいの治療(1)-元君の場合

 

■ タマシイの激震?

「先生に指導してもらわなければステロイド薬づけになっていたと・・・
今、考えても恐ろしい事になっていたと思います。」

これはこの臨床例を書くに当たり、
掲載許可をとる確認メールの返信に書かれていたことです。

今年は二〇〇九年ですから、あの臨床は確か一九九〇年頃です。
クライアント本人は約二〇年前のその時から一切薬は使っていないようです。

アトピーの幼児が居るので見て欲しいということで出張指導に行きました。
仮に元(はじめ)君とします。(五歳)



元君には上に二歳年上のおねぇちゃんがいます。
私が着くと早速二番目らしいやんちゃぶりを発揮しています。

お母様の声をよそにあれやこれやとイタズラを展開します。
開けた窓の際に登って冷や冷やさせてたり、

使用しないオモチャを広げてみたりと
子供にありがちな大変素直な行動をとっています。

「こらっ、そんなことしてないでこっちへ来なさい!」

「あ"ー危ない、何をしてるの!いい加減にしなさい!」

どちらかというと控えめな感じのお母様の声がだんだんと黄色を帯びていきます。
私にこれまでの経過を話しながらお母さんはメーターが上がっていきます。

十分、二十分と過ぎていきました。

守秘義務があるので詳細は話せませんが

お母様にもいろいろと人間関係で負担がかかっている様子でしたので
チラリ、チラリと元君を見ながら私は複雑な親族関係の話を聞きました。



三〇分を過ぎて四〇分近く経ちました。

そろそろなんとかせねば…、内心私はそう思いました。
さて、腹を決めるか…、私は正座し直しました。

「コラッ!ハジメッ!ちゃんとしなさい。ここへ来て座りなさいっ!」

一人やんちゃにもくたびれたのでしょう。
彼は母の声に私の右斜め前にペタッと正座しました。

ちょっと沈黙が流れた後、
私はごく普通に彼にこう言いました。


「元君のアトピーは、お母さんがさっきから言っているように汚いことばで叱っているからそれが肌に出ているんだ」


彼の中で何かが起きた。

その手応えを感じた。


もしかしたらタマシイが激震したかもしれない。

彼は言葉も動きもなくし、唖然と驚愕が一つになったのか、
目が点になり呼吸は止まったかのようだった。



問題はここからであった。
どんなことがあっても一時間で帰ろうと最初からそう想っていた。

指導時間を長くすることは良いことではない。
ここで手を出すか出さないかは大きな問題だった。

私の中に「出すな」という声と
「今後身体の変化を確認するには身体を見ておいた方が良いのでは?」

この二つがあってその葛藤に悩んだ。
でも、結局それ以上は何もしないで指導料と出張料をしっかりいただいて帰った。

充分手応えは感じていたが「‥‥ヘタすると詐欺と同じだな‥‥」
そう思いながら帰ったのを今でも覚えている。



約一週間ほどしてお母様から電話がかかってきました。


「あ…、あとぴぃが…き、消えました。」


彼女は泣いていてまともに言葉が聞き取れなかった。

詐欺にも仏のご慈悲があったということか。


今思うに、正直なところ、
この時に私の心にあったのは「ありがとう」だったと思う。

私は詐欺になることをなんとか免れた。

満月の翌日は新月そのようなことはありえない。
元君のアトピーは日ごとに変わっていったらしい。

ゆっくりと細胞の新旧が交代していったのだろう。

「完全に無くなったのではないが皮膚が

新しいものに変わりアトピーが目立たなくなった」とお母様。



アトピーの原因について整体の人は

妊娠期に腎臓機能の低下などがあってか、
親が自分の身体にもっていて自力排泄すべき物を
子供の身体に預けてしまうためという言い方をする。

野口整体(注1)の人たちは常識では計り知れないくらい
手の感覚を高めて身体の細かい変化を追っている。

例えば背骨何番のどのあたりにあるこれこれこういった
緊張を取るとサッと下痢してしまう。

何センチ以下の筋腫だと五番を処理すれば生理と一緒に出るとか。
そういうように同じ手を持てば相伝できるようになっている。

そういう信頼性や私の次男も生まれて直ぐにアトピーになったが
家内は妊娠中に腎臓機能低下を起こして浮腫んでいたこと、

その他臨床的経験をふまえると、やはり妊娠期の母親の
腎臓の調子はアトピーに関係するように確かに思える。

しかしそれは「排泄すべき『物』がある」という生理的な範囲の話し。



それと異なってこの臨床事実が「心理変化」を基点に
なりたっていることは誰にもお分かりになると思う。

これ故にアトピーの原因を物の変化の問題とは一概に決めがたい。

そう言う意味ではあの時少しでも元君の身体を
細かく観察しておけばケース分類できたのかもしれない。

彼に触ろうとしたが嫌がったので止めたのだった。

それでなくとも大人から子供への抑圧構造が病症を引き起こしている
傾向があるのだから私は二の前を踏みたくはなかった。



手前で四十分の時間をかけたのはその場で可能な限りの判断を巡らせるためだった。

元君のは全体は良くなるが体のある一部分には残るかもしれないと思っていたら、
果たしてそうなった。彼はすでに成人している。

このアンビリーバボーな臨床にも
自分に問題があったことをずっと後になって気づいた。

これは「7.詐欺まがいの治療(1)育てられつつある私」にまとめました。

仏のご慈悲があった…ヤマホタルブクロ ミソハギの花言葉「慈悲」.jpg
仏のご慈悲があった…ヤマホタルブクロ ミソハギの花言葉「慈悲」.jpg

 

 

(注1)野口整体-この閉鎖的な団体も最近は少しオープンになってきました。「整体入門」「風邪の効用」と、ちくま文庫から出ています。ご一読を進めます。ただ、この世界は治療が目的ではなく、グローバルで細やかさに満ちた健康法の世界であることを付記します。

野口整体のコミュニティありますよ。その他関係情報も。
 →http://mixi.jp/view_community.pl?id=17145

PS.1
管理人は現在、整体協会の会員ではありません。

PS.2

文中「仏のご慈悲」という表現をつかいましたが由は取り立てて特定の仏教を信奉する者でも批判者でもありません。